5.大きくすると音が変わる?

5.1.空間によって響きが違う

[4.1.空間の大きさを制限する]の内容を思い出してほしい。同じ音量で音を出しても、音を出している空間の 大きさによって、大きく聞こえたり、小さく聞こえたりするということだった。このように、まったく同じ音が出ていても、 空間の大きさによって聞こえる音が違ってくるというのは、日常的にも容易に体験できる。このことをもう少し掘り下げて 考えてみよう。

空間の大きさで音が違って聞こえるのは、どういう理由からだろうか?
直接音と残響音を分けて考えてみたい。直接音というのは、音の発生源から直接耳に届く音なので、 空間の広さにかかわりなく、発生源が同じで、発生源から耳までの距離が同じなら、いつも同じはずだよね。 だとすると、音が違って聞こえる理由は残響音にあるはずだ。

理由のひとつは、空間が小さくなればなるほど、壁・床・天井などのお互いの距離が近いために、 音が反射しやすくなるためだ。反射しやすくなるということは、それだけ残響音が増えるし、残響音が聞く人の耳に 届くまでの通り道が複雑になる(響き方が複雑になる)ということだ。これは、空間の大小だけではなく、 その空間がどのようなかたちをしているかにも因る。その空間は体育館のようにま四角なのか、ドーム型なのか、 コンサートホールのようなかたちなのか、ということだ。そのような大雑把な形もそうだが、壁や天井に 凹凸があるのか、平面なのか、曲面なのかも大きく影響する。

ふたつめは、壁・床・天井など、残響音に影響を与えるモノの材質だ。すなわちそれらがコンクリート製なのか、 木製なのか、大理石なのか、ウレタンなのか・・・etc.ということ。わたしたちの身の回りにあるそれらのモノは、 音に対する特性というものを持っている。遮音特性や吸音特性と呼ばれるものだ。それらを総称して音響特性とも言う。

簡単に言うと、遮音特性とは音をどれだけ遮ることができるかを表す特性。つまり、遮音特性が良いということは、 そのモノでできた壁に音をぶつけても反対側に漏れにくい(透過しにくい)ということだ。吸音特性とは、 音をどれだけ吸い取ることができるか(反射させないか)を表す特性。つまり、吸音特性が良いということは、 そのモノでできた壁に音をぶつけても跳ね返ってくる音が少ない(反射してくる音が少ない)ということだ。

まぁ、良い悪いというのはどういう立場に立つかによってかわるから、あまり適切な表現ではないけど、ニュアンスは分かるよね?

そんなな訳で、モノというのは全て、その素材特有の音響特性をもっているので、空間を構成している素材が変われば 残響音も変わってくる。すなわち、聞こえ方が変わってくるということ。

以上、まとめると、音の発生源が同じでも、空間(会場)によって音が違って聞こえるのは、次の2つの理由による。



このように空間が違うと聞こえる音が変わるっていうのは、音を扱う側にとっては結構やっかいなもの。 しかも、音を大きくすればするほど残響音の影響は大きくなる。発生源の音が大きくなるということは、 音が消えるまでの時間もそれだけ長くなるからだ。発生源からの音はたいてい連続して出ているから、 その音が大きくなればなるほど、その残響音は後から出る音に及ぼす影響が大きくなる。

例えば、ピアノでドレミファソと指1本で順番に鳴らすとする。その時、ピアノのテヌートペダルを まったく踏まないで鳴らした場合と、踏みっぱなしで鳴らした場合を考えてみよう。普通ピアノっていうのは 鍵盤を押し込んだときに音が鳴って、鍵盤を離すと音が止まるようになっている。それをわざと止まらないように するのがピアノの足元についているテヌートペダルっていうものだ。つまり、鍵盤を離しても音が消えずに しばらく鳴っていてほしいときに使うものだ。残響音がいつまでも消えない状況というのは、極端に言うと テナートペダル踏みっぱなしの状態だ。ドとレとミとファとソが一緒に鳴っていたら、あんまり気持ちのいいもの じゃないよね。あいうえおという言葉を話すにしても、はじめのあがおわりのおが出るまで響いていたら、 言葉が重なって何を話しているか聞き取れなくなる。上記音響特性の中には言葉の明瞭度なんてのもあるくらいだ。 きちんと音響設計された建築物っていうのは、そんなことまで考えて作ってあるのだ。

[3.3.たくさんの人に音を伝える]で、伝えたい人(音を出す人)→音響担当者→伝えられる人(音を聞く人)という流れ を説明したのを覚えているかな。伝えたい人にとっては、自分が出した音(言葉)が、そのまま伝わってほしいと 願うのは当然のこと。それが空間の持つ響きによってストレートに伝わらない場合、それを調整して、 出来る限りそのままの形で伝わるようにするというのも、音響担当者のひとつの役割になる。つまり、 その空間の持っている残響(響き具合)を調整するのだ。

残響を調整するといっても、なんか漠然としてるよね。調整の話に入る前に、そもそも「残響」って具体的に 何がどうなった状態をいうのかをみてみよう。

Atsushi Hirai; 2006-01-01 open; 2006-01-01 update Mail to