5.大きくすると音が変わる?

5.2.「残響」って何?

「残響」っていうのは直接聞こえる音じゃなくて、壁などに跳ね返ってから聞こえてくる音。っていうのは前に説明したよね。 「やまびこ」なんかでもそうだけど、跳ね返ってくる音っていうのは、直接届く音と比べると、ハッキリしないよね。 じゃぁ跳ね返ると何でハッキリしなくなるのか? 音の何が変わるのか? 前に[3.2.音を伝える]の中で、「音の大きさ」 「音の高さ」[音の表情」っていう「音の3要素」について説明したよね。その3要素のうち、何が変わると思う?

まず、「音の高さ」について。これは変化がないと考えていいだろう。もし、跳ね返るたびに音が高くなったり、 低くなったりしたら、残響音が混じれば混じるほど、色んな高さの音が混じることになるので、気持ちの悪い音になってしまう。 だけど、実際にはそうはならないからね。

次に、「音の大きさ」について。これは明らかに小さくなるよね。直接届く音より跳ね返ってくる音の方が届くまでに時間がかかる。 音は時間の経過とともに小さくなるので、跳ね返ってくる音の方が小さくなる。また、モノにぶつかるってことは 反射もするけど、モノによってはかなり吸収もされるので、それで小さくなるということもある。でも、小さくなったからといって ハッキリしなくなるということはないよね。音が小さすぎて聞こえないというのはあるだろうけどね。 ステレオのボリュームを小さくしたからといって、音がハッキリしなくなるわけじゃないよね。

そうしたら、残るは「音の表情(音質)」だということになる。
そう、跳ね返ることによって、音質が変わるのだ。

その音質ということを考えるときに、ひとつ覚えておいた方がいい言葉がある。「周波数帯域」という言葉だ。 [3.2.4.音の表情]の中で周波数成分という話をしたよね。ひとつの音の中には、その音の音程(高さ)を決める 周波数の音(基音)以外にも、倍音と呼ばれる他の周波数の音(違う高さの音)も混じっているという話だ。 その色々な高さの周波数成分の、一番低い周波数から一番高い周波数までの幅を「周波数帯域」という。

例えば、88鍵のピアノの一番低い音は27.5Hzで一番高い音は4172Hzだ。そのことを、「ピアノの持つ周波数帯域は 約27Hz〜4000Hzくらいだ」と言ったり、「CDに収録できる音の周波数帯域の規格が20Hz〜20000Hzなのは、 人間の耳が聞き取れる音の周波数帯域がおよそ20Hz〜20000Hzで、それに合わせて決められたからだ。」 なんて言い方をする。

ちなみに一般的な電話を使った通話では300Hz〜3,400Hz、AMラジオ放送では300Hz〜7,000Hz、 FMラジオ放送では50Hz〜15,000Hzの帯域が伝送可能である。また、ラジオやテレビ、携帯電話、無線、ワイヤレスマイク などで扱う電波は人間には聞こえない帯域の周波数を扱う。最近よくニュースで携帯電話の通信に800MHz帯が 認可されるとかって話が出てくるけど、MHz(メガヘルツ)のM(メガ)っていうのは1,000,000倍っていう意味なので、 800MHz帯っていうのは800,000,000Hzだ。そのように通信に使われる電波にはその分野によって許可されている 周波数帯域があって、その帯域の範囲内の周波数で通信を行なっている。なんとなく、周波数帯域という 言葉のイメージがつかめたかな?

ちょっと話がそれたけど、周波数帯域っていうのはどちらかというと理数系的な言い方で、もっと 直感的・音楽的な表現に直すと「音域」ということになる。音域という場合は、当然耳に聞こえる音を 扱う表現なので、20Hz〜20000Hzの中での表現になる。その中をだいたい3つに分けて、「低音域」「中音域」 「高音域」あるいは、「低域」「中域」「高域」というような表現もする。こっちの方がとっつきやすいかな? いずれにしても音の高さを表す「周波数」、その幅を表す「帯域」「域」という言葉は、音響の勉強をするときに 避けては通れない言葉なので覚えておいた方がよいよ。

さて、話を戻そう。モノにぶつかると音質が変わるということはどういうことか?  [5.1.空間によって響きが違う]の中でモノには音響特性があるという話をしたよね。遮音特性とか、吸音特性とか。 その特性には周波数が深くかかわっている。

どういうことかというと、モノが音を反射したり吸収したりするときに、低音域から高音域まで全音域(帯域)において 均等に反射したり吸収したりするのではないということだ。あるモノは高音域が強く反射され、あるものは低音域が 強く反射されるというような現象が起こる。モノの材質や形が変われば、音域(帯域)によって反射・吸収される割合が 異なるということだ。つまり、空間(会場)によって「よく響く周波数帯域」と「それほど響かない周波数帯域」があるということだ。

そして、残響音というのは1回反射された音だけではない。元の音が強くなればなるほど反射される回数が増え、 そのたびにその特定の周波数帯域だけがますます響くようになる。その結果、残響音の音質も次第に変わっていって、 「何だかこの会場ってキンキンして音が硬いよね」とか、「何だかこの会場って中域が響きすぎて言葉がハッキリ聞こえないよね」とか、 「何だかこの会場って低音域が響きすぎて音がモコモコするね」というふうになるのだ。 ちなみに、響きすぎるということを表現するのに、よく高音域が響きすぎることを「高音が回る」、 低音域が響きすぎることを「低音が回る」とかいうような言い方もする。

ここで、実際に問題となるのが、特定の周波数帯域の音だけが「響きすぎる」ということ。その響きすぎによって、 伝えたい側の内容(言葉、音楽の質など)が聞く人にきちんと伝わらないという現象が起こるのだ。 そして、その響きの程度は空間(会場)が違えば、大なり小なりみんな違う。その響き(残響)の問題を解決するのが 音響担当者の大きな働きのひとつとなる。

どうやったら、その響き(残響)を調整できると思う?

Atsushi Hirai; 2006-01-01 open; 2006-01-01 update Mail to