では今まで見てきたような響きを調整するには、具体的にどのような方法があるだろうか?
大きく分けて2つある。ひとつは、会場の「響き方」を変えるという方法。
もうひとつは、会場で「鳴らす音」を変えるという方法だ。
以下、それぞれ具体的にみてみよう。
【会場の響き方を変える】
響かない会場で、もっと響きを増やしたい場合には、反響板を使うという方法がある。よくクラシックの
コンサートなどで演奏者の後ろに立ててある板のことだ。反響板を使うことにより、ステージの後ろに逃げてしまう
響きを反射させて、客席に向けてあげようという方法だ。それ以外はちょっと思いつかない・・・。
逆に響きすぎる会場の場合には(これがやっかいなのだが)、音を吸収するものを会場内に配置するという方法がある。
例えば、じゅうたんを敷く、壁にカーテンを付ける、壁や天井に吸音材を取り付ける、お客さん全員に厚手のセーターを
着てもらう(爆)・・・などなど。
でも、そのような設備に絡む話だと大掛かりになり、お金もかかる。ひとつの会場だけに限った話ならば、予算の
都合がつけば可能だろうが、当セミナーの趣旨からは外れるので、この話はここまでにしておこう。でも、響きを変えるには
そのような方法もあるということだけは、頭に入れておこう。いつか何かの役に立つかもよ。
【鳴らす音を変える】
このセクションの本命はこれだ。会場には何も手を加えないで、響きを変えるにはどうしたよいか。やっかいなのは
特定の周波数帯域だけが特に響く場合だと説明した。今、仮に、スピーカーから低音域から高音域まで、
ほぼ同じ音量(仮に10とする)で直接音が出ているとする。客席にいる人はその直接音に残響音が加わった音を聞いている。
もし、残響音の音量が全周波数帯域に渡って1だけあり、その中で300Hz〜500Hzという特定の周波数帯域だけ残響音の
音量が5である場合、客席にいる人は300Hz〜500Hzの帯域に限っては15(直接音10+残響音5)の音量で聞くことになり、
その他の帯域では11(直接音10+残響音1)の音量で聞くことになる。つまり、直接音だけなら全帯域に渡って
均一の音量で聞こえるはずなのに、残響音が加わったために、300Hz〜500Hzの帯域の音だけが大きく聞こえてしまうことになる。
こういう現象が実際に起こると、客席で聞いている人には「何かこの会場の音、変だな。」となるのだ。
そこで、ある人が考えた。「客席で300Hz〜500Hzの帯域の音だけ大きく聞こえるんだったら、その分だけ、
直接音(スピーカーから出る音)を小さくしたらいいんじゃない?」ってね。つまり、その300Hz〜500Hzの帯域だけ、
他の帯域に比べて4(15−11)だけ大きく聞こえるんだから、スピーカーから出ている音は全帯域で10の音量で出ているので、
300Hz〜500Hzの帯域だけ6の音量にするということ。そうすれば、300Hz〜500Hzの帯域では直接音6+残響音5=11、その他の帯域では
直接音10+残響音1=11の音量で聞こえるというわけだ。実際には直接音が小さくなればその分残響音も小さくなるので、
6まで下げなくても7くらいの感覚にはなると思うけどね。
そんなふうに、客席で聞こえる音の各周波数帯域ごとの音量バランスが、直接音として出ている音の各周波数帯域の音量バランスに
出来るだけ等しくなるように、直接音の各周波数帯域の音量を調整するのだ。この調整を可能にするのが通称「イコライザー」と
呼ばれている機材だ。英語で書くと Equalizer 直訳すると「等価器」となる。文字通り等しくするという意味だ。
元々は電話回線で通話する時に、話す声と聞く声の音質が等しくするというような目的で開発されたらしいが、
PAでもそれが応用されて同じような目的で使われている。
そのように、イコライザーを使って鳴らす音の周波数帯域ごとの音量バランスを調整することで、空間の響きを調整することを
「音場補正」という。次はそのイコライザーという機材について説明しよう。