リハーサルが終わったらいよいよ本番。ハウスミキサーやモニターミキサーは基本的にはリハーサルで確認した通りに、
イベントの進行に合わせてミキサやその他アウトボードの調整、効果音やカラオケのポン出しなどを行なっていくわけだ。
でも、なかなかリハーサル通りに行かないのが本番の面白いところ。まず大きく異なるのが、お客さんが入っているということ。
人間の体、着ている服などは音響的にいえば、吸音材だ。つまり、特定周波数帯域の音を吸ってしまうということ。多くの場合、
中低域の音が吸われてしまう。ということは、リハーサルの音をそのまま出したら、スカスカな音になりやすいってことだ。
また、お客さんの入りや、冷暖房による室内温度の変化によっても音は変わってくる。それらの音の変化をうまく補正していくのも
ミキサーマンのお仕事だ。音がどの程度変化したらどの程度調整を入れなくてはいけないかについては、現状、定量的なデータはない
と言っていいだろう。お客さんも程度の差こそあれそのような音の変化を感じるだろう。ミキサーマンとしては、お客さんが感じる以上に
わずかな音の変化を瞬時に感じ取れるセンスと、それらに即座に対応できる技術が必要になってくる。それらを行なうためには
経験を積み、そのような音の変化をある程度予測できるようでなければならないだろう。
また、音の変化だけでなく、機械的、人為的なトラブルも発生する。出演者がマイクスタンドにぶつかって、
マイクの位置がずれた、倒れた、なんてこともあるだろうし、ケーブルが外れたり、電波障害が起こってワイヤレスマイクに
ノイズが入り込んだり、リハーサルではなんともなかった機材が途中から急に動作しなくなったり、電源が入らなくなったり、
そのようなトラブルを数え上げたら切がない。それらに瞬時に、かつスムーズに対応出来なくてはならない。実際にステージ上の
トラブルに対応するためには、本番中にステージで動けるステージマンの役割が重要になってくる。また、ミキサーマンと
ステージマンの連携も大切だ。できればそのようなトラブルをお客さんに知られることなく、何事もなかったように
対応できれば一番よい。もっとも、できるだけそういう事態にならないように、準備をするのも音響屋としての仕事でもある。
最後に、音響屋として本番中にもっともやってはいけないことは何だろうか。それは音を切ってしまうこと。つまり、進行中に
音を途切れさせてしまうことだ。これがどういう状況か、言わなくてもわかるだろう。原因が機械的トラブルであれ、人為的な
ミスであれ、関係ない。これだけは何としても避けたいね。